動画制作を検討しているものの、数十万円から数百万円の制作費がネックになっている方は少なくありません。国の補助金制度を活用すれば、制作費の一部を補助金でまかなうことができます。ただし、補助金には「交付決定前の契約は対象外」「後払い方式」といった独自のルールがあり、制作のスケジュールや進め方にも影響します。この記事では、動画制作に使える補助金・助成金の制度概要を整理しました。加えて、制作会社として日常的に扱っている見積もり・スケジュール管理・目的設定の知見を補助金の文脈に当てはめ、申請から納品までの実務的な進め方を解説します。
目次
補助金の情報を調べ始めると、「補助金」と「助成金」という2つの言葉が混在していることに気づきます。まず、この違いを押さえておきましょう。
補助金は、国や自治体が政策目的に沿った事業を支援するために交付する資金です。申請すれば必ずもらえるわけではなく、審査があります。小規模事業者持続化補助金の採択率は40〜60%程度で推移しており、申請者の半数近くが不採択になります。
出典: StockSun、mvsk 各記事より
助成金は、厚生労働省が管轄するものが代表的で、要件を満たせば原則として支給されます。ただし、動画制作に直接使える助成金は限られています。
本記事では、動画制作費の補助に使いやすい国の補助金制度を中心に解説します。自治体独自の助成金でも動画制作に使える制度が存在します。たとえば、荒川区の「ホームページ作成支援事業」や北海道札幌市の「映像制作補助事業」などが該当します。自社の所在地や事業内容に合った制度がないか、自治体の公式サイトも確認しておくと選択肢が広がります。
出典: プルークス、IKKATSU 各記事より
動画制作費に充てられる可能性がある国の補助金は、主に以下の4制度です。対象者・補助率・上限額はそれぞれ異なります。動画制作費の扱いも制度によって違います。
| 制度名 | 対象者 | 補助率 | 補助上限額 | 動画制作費の扱い |
|---|---|---|---|---|
| 小規模事業者 持続化補助金 |
従業員20名以下 (商業・サービスは5名以下) |
2/3 | 50万円 (特例で最大250万円) |
「ウェブサイト関連費」に該当。 ただし補助金額の1/4が上限 |
| ものづくり補助金 | 中小企業・ 小規模事業者 |
1/2〜2/3 | 750万円〜5,000万円 (枠により異なる) |
グローバル市場開拓枠で海外向けPR動画が「広告宣伝・販売促進費」として対象。 国内向け動画は対象外。 補助対象事業総額の1/3以内 |
| 新事業進出補助金 | 中小企業 | 1/2〜2/3 | 最大9,000万円 | 「広告宣伝費」として動画制作が対象。 ただし補助下限750万円のため 事業規模が大きい案件向け |
| デジタル化・AI導入補助金 (旧IT導入補助金) |
中小企業・ 小規模事業者 |
1/2〜4/5 | 枠により異なる | ITツール導入が主目的。 動画制作単体での活用は難しい |
従業員20名以下(商業・サービス業は5名以下)の小規模事業者を対象とした制度で、販路開拓のための取り組みを支援します。動画制作費は「ウェブサイト関連費」の経費区分に該当します。
ただし、ウェブサイト関連費には重要な制約があります。補助金額の1/4が上限であり、ウェブサイト関連費のみでの申請はできません。つまり、通常枠(補助上限50万円)の場合、動画制作に充てられるのは最大12.5万円です。チラシや広告などの他の販路開拓費用と組み合わせて申請する必要があります。
出典: 中小企業庁 公式、そよぎ行政書士事務所
2026年4月時点の最新情報として、第19回の公募が進行中です。申請受付は2026年3月6日から2026年4月30日17:00まで。事業支援計画書(様式4)の発行受付締切は4月16日のため、商工会議所への相談はそれまでに済ませる必要があります。
出典: 中小企業庁 公式
中小企業の設備投資や新サービス開発を支援する制度です。動画制作費が補助対象になるのは、グローバル市場開拓枠で海外向けのPR動画を制作する場合に限られます。国内向けの商品紹介動画や採用動画には使えません。
出典: ものづくり補助金 公式
広告宣伝・販売促進費として申請できる上限は、補助対象事業の総額の1/3以内です。海外展開を計画している企業にとっては有力な選択肢ですが、国内市場向けの動画制作には適していません。
事業再構築補助金の後継として2025年に創設された制度です。既存事業と異なる新市場への進出を支援します。動画制作費は「広告宣伝費」の経費区分で対象になります。
出典: 中小企業庁 公式、mono-support
ただし、補助下限額が750万円と高く設定されています。動画制作だけで750万円に達することは通常ないため、設備投資やシステム開発などの大きな事業計画の一部として動画制作費を含める形になります。第4回公募の申請期間は2026年5月19日〜6月19日です。
旧IT導入補助金が2026年から名称変更された制度です。ITツール(ソフトウェア、クラウドサービス等)の導入を支援する補助金で、補助対象はITツール検索に登録・公開されているツールに限定されます。
出典: デジタル化・AI導入補助金 公式
動画制作そのものは「ITツールの導入」ではないため、動画制作費を直接この補助金で賄うのは難しいのが実情です。動画配信プラットフォームや動画編集ツールなど、ITツールとして登録されているサービスの導入であれば対象になる可能性がありますが、撮影・編集などの制作費用は対象外です。
補助金制度には、通常の動画制作の発注とは異なるルールがあります。制度説明だけを読んでいると見落としやすいポイントを、制作の実務で日常的に扱っているスケジュール管理や契約フローの知見を踏まえて整理します。
補助金の最も重要なルールの一つが、交付決定通知を受け取る前に発生した経費は補助対象外というルールです。
出典: 各補助金の公募要領で明記、補助金コネクト
通常の動画制作であれば、制作会社に相談してから見積もりをもらい、契約して制作を開始するという流れが一般的です。しかし補助金を使う場合、この流れが変わります。交付決定が出る前に制作会社と契約を結んでしまうと、その契約に基づく制作費は補助の対象になりません。
制作会社への「相談」や「見積もり取得」自体は契約ではないため、交付決定前でも問題ありません。むしろ、申請段階で制作会社から見積もりを取得しておくことは、事業計画書の経費根拠として必要です。ポイントは「相談・見積もりは先に、契約は交付決定後に」という順番を守ることです。
動画制作の現場でよく見る失敗パターンの一つが、目的が曖昧なまま制作に入るケースです。補助金が使えるとわかった段階で「せっかくだから動画を作ろう」と進めてしまうと、「誰に向けた」「何のための」動画なのかが定まらないまま企画が走り出します。
制作会社が最初にクライアントに確認するのは、「この動画で何を達成したいのか」「動画を見た人にどう行動してほしいのか」という目的の定義です。この目的が曖昧なまま進むと、撮影の方向性がブレたり、編集で「やっぱり違う」と手戻りが発生したりします。結果として、納期が遅れ、補助事業の実施期限に間に合わなくなるリスクが生じます。
補助金を使うかどうかに関わらず、動画制作で最初に固めるべきは「目的」と「届けたい相手」です。補助金はあくまで費用を軽減する手段であり、動画を作る理由にはなりません。
補助金は後払い(精算払い)方式です。制作費を先に全額支払い、事業完了後に実績報告書を提出し、審査を経て補助金が入金されます。入金までに数か月かかることも珍しくありません。
たとえば、制作費が100万円で補助率が2/3の場合、まず100万円を制作会社に支払い、その後最大約66万円が補助金として戻ってくるという流れです。制作費の全額を一時的に自社で負担する資金的な余裕が必要です。この点は、見積もりの段階で制作費の総額を把握しておくことが重要です。
補助金の申請手順は多くの記事で解説されていますが、「制作会社にはいつ相談すればよいのか」が抜けている場合がほとんどです。ここでは、申請から納品までの流れを制作会社との連携タイミングと重ね合わせて整理します。
小規模事業者持続化補助金 第19回(2026年4月30日締切)を例に、具体的なスケジュール感を示します。
申請書を書く前に、以下の準備を進めておくとスムーズです。
見積もりの取得と商工会議所への相談は並行して進められます。動画制作の見積もりは、依頼内容を伝えてから通常1〜2週間で出てきます。申請締切の3〜4週間前には制作会社への相談を始めておくのが現実的です。
動画制作を依頼する前に何を準備すべきかについては、「動画制作を依頼する前に準備すべきこと」で詳しく解説しています。
交付決定後のスケジュールは、補助金の事業実施期限から逆算して組む必要があります。
| ステップ | 内容 | 目安期間 |
|---|---|---|
| 交付決定 | 交付決定通知を受領 | 申請締切から 2〜3か月後 |
| 制作会社と契約 | 交付決定後に正式契約を締結 | 決定後1〜2週間 |
| 企画・構成 | 動画の構成・台本・撮影計画の策定 | 2〜4週間 |
| 撮影 | 現場での撮影実施 | 1〜3日 (規模による) |
| 編集・修正 | 編集、修正対応、最終納品 | 3〜6週間 |
| 納品・検収 | 最終データの納品と検収確認 | 1週間 |
| 実績報告 | 実績報告書の作成・提出 | 事業完了後 30日以内 |
制作会社との契約から納品まで、標準的な動画制作では2〜3か月かかります。事業実施期限から逆算して、交付決定後すぐに制作を開始できる準備を整えておくことが重要です。
制作会社の選び方について迷う場合は、「動画制作会社の選び方ガイド」も参考にしてください。
スケジュールに不安がある方は、交付決定前の段階でも制作会社に相談できます。費用感の把握や事業計画書の準備に役立つ情報をお伝えしますので、お気軽にお問い合わせください。
補助事業の完了後には、実績報告書を提出する必要があります。報告書には、経費の使途を証明する書類(契約書・請求書・振込明細・成果物の写し等)を添付します。
制作会社への依頼事項として知っておきたいのは、以下の点です。
これらの書類対応は、制作会社に「補助金を利用する案件であること」を契約時に伝えておけば、対応してくれるケースが多いです。
補助金の審査では、「なぜ動画が必要なのか」「動画でどんな事業効果を見込むのか」を事業計画書に記載する必要があります。ここが採択・不採択を分ける重要なポイントです。
小規模事業者持続化補助金の採択率は40〜60%で、不採択になる申請書の約40%は書類不備が原因と言われています。ただし、この数値は公式統計ではなく参考値です。書類の「不備」には、フォーマットの記入漏れだけでなく、事業計画の具体性不足も含まれます。
出典: StockSun記事 より(公式統計ではないため参考値)
事業計画書で動画について記載する際に意識したい3つのポイントがあります。
事業計画書に記載する経費の根拠として、制作会社の見積書は重要な裏付け資料です。見積もりが具体的であるほど、計画の実現可能性が伝わります。
制作会社に事前相談するメリットは、見積もりの取得だけではありません。
見積書の読み方については、「動画制作の見積書の読み方」で費目の意味と妥当性の判断基準を解説しています。
動画制作の費用は、企画費・撮影費・編集費・ナレーション費・BGM費など複数の費目で構成されます。補助金の対象になるかどうかは、制度ごとの経費区分と条件によって異なります。
動画制作費は「ウェブサイト関連費」に該当しますが、以下の制約があります。
グローバル市場開拓枠で海外向けPR動画を制作する場合に、「広告宣伝・販売促進費」として対象になります。
「広告宣伝費」として動画制作費が対象になりますが、補助下限が750万円のため、動画制作単体では申請できません。設備投資やシステム導入など、大きな事業計画の一部として動画制作費を含める形になります。
動画制作の費用そのものについて詳しく知りたい方は、「動画制作の費用相場と見積もりの見方」で種類別の料金や費用の決まり方を解説しています。
動画制作に使える補助金制度のポイントを3つに整理します。
補助金を使った動画制作を検討中の方は、制作費用の見積もりや申請スケジュールの相談からお気軽にどうぞ。制作会社の視点で、補助金申請に必要な情報整理もお手伝いします。
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