エンジニアを採用したいのに、応募が集まらない。IT業界では多くの企業がこの課題に直面しています。経済産業省の試算によれば、IT人材の不足は2030年に最大79万人に達する見通しです。
出典: 経済産業省「IT人材需給に関する調査報告書」、日本経済新聞 2025年12月報道
この記事では、千葉県に本社を置くIT企業が初めて採用動画を制作し、面接の場で「動画を見て応募しました」という求職者の声が生まれるまでの経緯を紹介します。SNS広告と動画のどちらを選ぶか迷った判断、初めての撮影で全員が緊張した体験、そして求職者から届いた反応まで、担当者へのインタビューをもとにお伝えします。
目次
IT業界のエンジニア採用が難しいのは、単に求職者が少ないからではありません。人材の需要と供給のバランスが構造的に崩れていることに加え、企業の魅力が求職者に届いていないことが根本にあります。
厚生労働省「一般職業紹介状況」(2025年11月)によれば、情報処理・通信技術者の有効求人倍率は1.43倍です。全職種平均の1.12倍と比べて高い水準にあり、エンジニアの採用は他の職種より難しい状況が続いています。
経済産業省の「IT人材需給に関する調査報告書」では、2030年にはIT人材が最大79万人不足するとの試算が示されています。特にSES事業を中心とするIT企業は、プロジェクトに対してエンジニアを配置するビジネスモデルのため、人材の確保が事業の成長に直結します。
IT企業の仕事は「外から何をしているかわかりにくい」という特徴があります。製造業なら工場の映像で仕事のイメージが伝わりますが、エンジニアの仕事はパソコンの画面上で完結することが多く、文字や写真だけでは職場の空気感や仕事の実態を伝えきれません。
特に未経験者にとっては、「入社したらどんな仕事をするのか」「どうやってエンジニアとして成長していくのか」がイメージできないことが、応募をためらう大きな要因になっています。採用がうまくいかない本当の原因と対策でも解説していますが、採用課題の根本は「企業の実態が求職者に伝わっていない」ことにあるケースが少なくありません。
ここからは、実際にストークベースが採用動画を制作したIT企業の事例を紹介します。この企業はSES事業を中心に、法人向け業務システムの設計・構築・保守・開発、ゲーム系アプリケーションの開発などを手掛けています。
この企業が採用動画を検討したきっかけは、明確な課題意識でした。
担当者はこう話します。「創業したばかりで所属の人数も少なく、仕事はいっぱいあるけど受けきれないということがよくある中で、エンジニアの方を採用していくというところが大きな課題でした」
ホームページで会社情報は発信していたものの、新たな訴求方法として映像にはまだチャレンジしていなかったといいます。動画制作の発注は会社として初めてのことでした。
採用課題を抱える中で、外部から別の施策を提案されたこともありました。
「当時、SNSを用いた訴求が全体的に流行っていた時期でした。広告代理店の営業の方からも勧められましたが、私自身がそこまでピンときていなくて。動画の話をいただいた時に、そちらで舵を切ったという形です」
SNS広告による運用代行と、採用動画制作。どちらもエンジニア採用の手段として検討対象になりますが、この企業が動画を選んだ背景には「自分たちの会社を直接的に伝えられる手段が欲しかった」という判断がありました。採用動画のトレンドと成功事例では、近年の採用動画活用の全体像を解説しています。
採用動画を作ると決めた後、この企業はストークベースに制作を依頼しました。初めての動画発注で、何がどう進むのかわからない中での判断です。
動画制作は初めての経験だったため、具体的に何を心配すべきかもわからない状態だったといいます。
「不安とか懸念というよりも、自分たちが思うイメージ通りになるかなというところは気にしていました」と担当者は振り返ります。大きな懸念があったわけではなく、初めてのチャレンジに対する自然な感覚だったようです。
社内の反応も、大きなイベントとして受け止められていたわけではありませんでした。「新しい取り組みなので面白そうですねという話はありましたが、そこまで大きく話題にはならなかった。ホームページに掲載するものなので、実際にやり始める前はそういう形でしたね」
制作会社の選定にあたっては、複数の企業とのやり取りがありました。その中でストークベースへの依頼を決めた理由について、担当者はこう話しています。
「打ち合わせでも、結構細かく声を拾ってくれた。いろんな企業様とやり取りをさせていただいた中で、一番そのフィーリングというか、そういう印象を受けたのが決め手になってお願いしたという経緯です」
採用動画の制作会社を選ぶ際に、ポートフォリオの映像品質だけでなく、ヒアリングの丁寧さやコミュニケーションの相性が判断材料になることがわかります。採用動画の費用相場と予算別の始め方では、初めて動画制作を依頼する際の費用感についても解説しています。
撮影は社員インタビューを中心とした構成で行われました。求職者が知りたいポイントを整理し、それに応える形でインタビューを設計しています。
担当者は撮影当日の様子をこう振り返ります。「私を含めてみんな緊張していました。特に初めてのチャレンジだったので」
初めての動画撮影で緊張するのは自然なことです。しかし、撮影の進行はプロに任せることで、結果的に満足のいく仕上がりになったといいます。
「そういう中でもうまく導いてもらったり、ここはこうしてくださいねと細かく言ってもらえた。出来上がりはすごく良かったので、プロだなと改めて思い返します」
撮影に慣れていない社員が出演する場合、カメラの前でどう振る舞えばよいかわからず固まってしまうケースは珍しくありません。この事例では、撮影スタッフがリードすることで自然な受け答えを引き出し、結果として企業のリアルな空気感を映像に残すことができています。
採用動画を公開した後、この企業には具体的な変化が生まれました。面接の場で、動画が応募のきっかけになったという声が直接届いたのです。
担当者は驚きを持ってこう語ります。「面接をしていく中で動画の話題が出てきて、動画を見て応募しましたという声が実際にいくつもあった。自分たちのことを知ってもらうツールとして、伝えたいことがちゃんと伝わっているんだなと感じました」
CareerBuilderの調査では、求人に動画を含めると応募率が34%向上するというデータが報告されています。この企業の事例は、調査データが示す傾向が実際の採用現場でも起きていることの一次証拠です。採用動画の効果を事例で検証では、採用動画全般の効果をデータとともに解説しています。
複数制作した動画の中で、特に求職者からの反響が大きかったのは、未経験からエンジニアになった社員のキャリアパスを紹介するインタビュー動画でした。
「この業界は未経験の方がなかなか入りづらい。どういうルートを辿ってエンジニアになっていくかは、どこにも書いていない。リアルなエンジニアのインタビューでイメージできたという声はよく聞きます」
IT業界で未経験者が「自分にもできるのか」と不安に感じるのは当然のことです。求人票のテキストでは伝えにくい「実際にどんなステップを踏んでエンジニアになったのか」を映像で見せることで、応募のハードルを下げる効果が生まれています。
採用動画の効果を定量的に測定するのは難しい面があります。この点について、担当者は正直にこう話しています。
「費用対効果は検証しにくい分野だと思います。動画があるから採用できましたとか、応募がありましたという話にはたぶんならない。ただ、反応を直に声として聞くことができたから、やってよかったと感じています」
採用動画の効果は、広告のようにクリック数やコンバージョン率で明確に測れるものではありません。しかし、面接の場で「動画を見て応募した」という声が複数あったという事実は、費用対効果を示す定性的な根拠として十分に説得力があります。
数値化が難しいことを理由に導入を見送る企業もありますが、この事例は「定量データでは測れない効果が現場では確認できている」ことを示しています。
IT企業とエンジニア採用における採用動画の有効性は、業界特有の課題と結びついた4つの点に整理できます。求人媒体では伝わらない情報を映像で補完し、応募・入社後の両フェーズで効果を出す構造です。
IT企業の業務は、外から何をしているかがわかりにくい代表的な業種です。SES事業のエンジニアがどのような現場にどのように関わっているのか、受託開発でどのようなプロジェクトを進めているのかは、テキストや写真ではほぼ伝わりません。社員の1日を追った映像や、開発現場の様子を短いカットで見せるだけでも、求職者の解像度は大きく上がります。
若手・中堅層の約9割が「入社後にギャップを感じた経験がある」と回答しています。
出典: エン株式会社「AMBIキャリアサポーターズ調査」2024年5月〜6月実施、n=929、https://corp.en-japan.com/newsrelease/2025/38619.html
エンジニアは職場の空気やチームの技術文化を重視して転職先を選ぶ傾向が強く、この情報を求人票で伝えるのは困難です。採用動画で先に「誰と、どんな空気で働くか」を提示できれば、応募時点での相互理解が進み、入社後ギャップと早期離職の抑制につながります。
IT業界では未経験・第二新卒からのエンジニア転職ニーズが根強い一方、求職者側は「自分にもできるのか」の不安を抱えたまま応募に踏み切れません。未経験入社した社員が入社後にどのステップでスキルを身につけ、いつ現場に出たのかを本人の言葉で映像化すると、この不安に直接答えられます。本記事で紹介した事例でも、未経験からエンジニアになった社員のキャリアパス動画が最も反響を得ました。
CareerBuilder調査では、求人に動画を含めると応募率が34%向上するというデータが報告されています。IT企業のように「同じような求人票」が並びやすい業種ほど、動画の有無による差別化効果は大きくなります。求人媒体・自社採用サイト・YouTube・カジュアル面談前の資料など、複数の接点で同じ動画を流用できる点も投資対効果を高めます。
IT企業の採用動画は、伝えたい内容とターゲットによって型を選びます。ここでは実務でよく採用される5タイプを、向いている企業と収録の目安時間、見せどころで整理します。
向いているのは、複数職種のエンジニアを採用したいIT企業です。バックエンド・フロントエンド・インフラ・SRE・PMなど職種ごとに1〜2名ずつインタビューし、それぞれの1日と技術スタックを聞きます。1本あたり2〜4分×職種数の構成が一般的で、収録は職種ごとに30〜60分。見せどころは、職種ごとの仕事内容と使っている技術がリアルにわかることです。
向いているのは、SES事業や受託開発で「現場に入ってからの働き方」を伝えたいIT企業です。1名のエンジニアの出社から退社までを追い、朝会・実装・レビュー・退勤といった業務の流れを映像で見せます。長尺(8〜20分程度)で1〜2日の撮影が目安。見せどころは、業務のペース感とチームのコミュニケーションが自然に映ることです。
向いているのは、開発環境や社内のカルチャーを見せたい自社開発型のIT企業です。オフィス・執務スペース・打ち合わせルーム・リフレッシュエリアを社員がガイド役で紹介します。3〜5分の短尺で半日撮影が目安。見せどころは、モニター環境・座席レイアウト・出社/リモートの実態が把握できることです。
向いているのは、未経験・第二新卒採用に力を入れる SES企業やスクール併設型IT企業です。未経験で入社した社員1〜2名に、入社前の職歴・研修・現場配属・現在の担当までを時系列で語ってもらいます。3〜6分・収録60分程度が目安。見せどころは、「自分にもできそう」と思わせる具体的なステップです。
向いているのは、技術方針や事業ビジョンで差別化したいIT企業です。CTO・VPoE・経営者が事業の方向性・技術選定の考え方・エンジニア組織の作り方を語ります。2〜4分・収録30〜45分が目安。見せどころは、技術的な意思決定の考え方が経営陣の言葉で伝わることです。
IT企業の採用動画は、企画設計・撮影・編集公開の3ステップで進みます。制作会社と一緒に動くとしても、社内でどの段階でどんな判断が必要かを知っておくと、進行が大きくスムーズになります。
最初にすべきは、動画を見てほしい求職者像と、視聴後にどうなってほしいかの明確化です。「新卒学生に自社を第一志望にしてほしい」「中途エンジニアにカジュアル面談に申し込んでほしい」「未経験者に応募のハードルを下げてほしい」など、狙いによって動画タイプも尺も出演者も変わります。制作会社と最初の打ち合わせで、この2点を言語化しておくと、以降の工程が大幅に短縮できます。
IT企業の採用動画は、社員インタビューを軸にすると失敗が少なくなります。台本を作り込みすぎると受け答えが硬くなり、リアルさが失われがちです。事前に質問リストは共有しつつ、当日は会話ベースで自然な反応を引き出す進行が有効です。撮影日は、出演エンジニアの業務が止まる時間を最小化するため、リモート勤務者は在宅で収録するなど工夫します。
編集では、ターゲットが最初の10秒で離脱しないよう冒頭で「誰が・何を語る動画か」を明示します。完成した動画はホームページ・採用サイト・YouTubeチャンネル・エージェント共有用・カジュアル面談の事前案内など、求職者が接触するあらゆる場所に配置するのが基本です。動画は一度作れば繰り返し使える資産になるため、置き場所の設計は投資対効果を左右する重要な工程です。
IT企業が採用動画を発注する場合、費用は動画のタイプと本数、制作期間は撮影日数と編集の複雑さで決まります。ここでは市場公開情報をもとに、代表的な相場感を整理します。
| 動画タイプ | 費用レンジ | 制作期間の目安 |
|---|---|---|
| 短尺インタビュー1本(3〜5分) | 15〜50万円 | 1〜1.5ヶ月 |
| 職種別インタビュー複数本セット | 50〜150万円 | 1.5〜2ヶ月 |
| 1日密着・体験入社(8〜20分) | 80〜200万円 | 2ヶ月前後 |
| ドラマ仕立て・ストーリー動画 | 150〜300万円 | 2〜3ヶ月 |
市場調査では発注金額の9割が100万円以下に収まり、平均は65.1万円、中央値は47.4万円という報告もあります。
出典: VIDEO SQUARE「採用動画の費用相場」2026年 https://crevo.jp/video-square/adoption/recruit-movie-cost/ / CINEMATO「採用動画の料金相場」2026年 https://cine-mato.com/magazine/recruitment-video-price/
IT企業の場合は、社員インタビューを軸に複数本セットで作るケースが多く、初回発注では50〜150万円のレンジに収まる企業が中心です。詳しくは採用動画の費用相場と予算別の始め方もあわせて参考にしてください。
初めて採用動画を発注するIT企業から実際に寄せられることが多い質問を、5つに絞って回答します。
Q1|制作会社に依頼する場合、何を伝えれば話が早く進みますか?
最初の打ち合わせで「誰に見せたいか(新卒/中途/未経験)」「見せた後にどうなってほしいか(応募・面談予約など)」「掲載する場所(HP・YouTube・エージェント共有など)」の3点を伝えると、以降の企画・見積・撮影の判断が一気に進みます。既存の求人媒体原稿や採用サイトのURLを共有しておくと、トーンや訴求のズレも防げます。
Q2|エンジニアに出演してもらう場合、どのくらい業務を止めますか?
社員インタビュー中心の撮影であれば、1人あたり60〜90分程度で収録が完了します。撮影当日以外の負担はほぼ発生しません。事前に質問リストを共有しておけば、当日は雑談ベースで進められるため、出演エンジニアの精神的な負担も抑えられます。
Q3|英語話者のエンジニアや、リモートの社員も撮影に参加できますか?
可能です。オンライン収録に対応している制作会社であれば、リモート社員は自宅からZoom等でインタビューに参加でき、映像として編集できます。英語話者の場合は日本語字幕を付けて公開するケースも増えています。この場合、社内のグローバル比率や多様な働き方を映像で示せるため、採用ブランドとしてはプラスに働きます。
Q4|1本作るのと複数本作るのは、どちらが効果的ですか?
狙いによります。認知獲得や短期の応募増を狙うなら、まず1本の会社紹介動画で十分機能します。中長期でエンジニア組織の魅力を伝えたい場合は、職種別インタビューや未経験者のキャリアパス動画など複数本セットの方が、求職者ごとに刺さる動画を届けられます。予算配分を悩む場合は、まず1本で反応を見てから追加制作するのが実務的です。
Q5|動画は何年くらい使えますか?作り替えの目安は?
オフィス移転や大幅な事業内容の変更がなければ、3〜5年は使い続けられる企業が多いです。ただし、出演社員の退職や事業モデルの変化があるとリアリティが薄れるため、その節目で追加撮影や差し替えを検討します。長く使いたい場合は、時期を強調する演出(「2026年」等のテロップ)を避けるのがコツです。
ここまでの事例を踏まえ、IT企業が採用動画で成果を出すために意識すべきポイントを整理します。
IT企業、特にSES事業を行う企業の仕事は、外から見えにくいという特徴があります。オフィスでパソコンに向かう姿だけでは、具体的にどんな仕事をしているのか求職者には伝わりません。
社員インタビューで「どんなプロジェクトに携わっているか」「1日の仕事の流れはどうなっているか」を語ってもらうことで、テキストでは伝えきれない仕事の実態を映像で届けることができます。
IT業界への転職を考える未経験者にとって最大の不安は「自分でもエンジニアになれるのか」です。今回の事例では、未経験からエンジニアになった社員のインタビュー動画が最も反響を得ました。
「入社後にどんな研修を受けるのか」「どのくらいの期間で現場に出るのか」「先輩はどうやってスキルを身につけたのか」。こうした情報は、採用サイトのテキストよりも実際の社員が語る映像の方が説得力を持ちます。
今回の事例では、制作した採用動画はホームページのみに掲載されていました。担当者もホームページ以外での活用はしていないと話しています。
しかし、採用動画はホームページだけでなく、YouTubeチャンネル、採用エージェントへの共有、会社説明会での上映など、複数のチャネルで活用することで効果を最大化できます。製造業の採用動画事例では、YouTubeに動画を公開したことで就活解禁日に再生数が急伸した例を紹介しています。
動画は一度制作すれば繰り返し使えるコンテンツです。ホームページに掲載するだけで終わらせず、求職者が情報収集するタッチポイントに戦略的に配置することが、投資対効果を高める鍵になります。
この記事で紹介した事例から見えたことを整理します。
採用がうまくいかない本当の原因では、業種を横断した採用課題の構造を解説しています。