「求人を出しても応募が来ない」「面接まで来ても辞退される」。こういう状況が続くと「うちは知名度がないから仕方ない」と考えがちです。
しかし、知名度がなくても応募が集まっている会社は現に存在します。違いは「求人広告の使い方」ではなく、「候補者からどう見えているか」にあります。この見え方を意図的に設計する取り組みが、この記事のテーマである採用ブランディングです。
意味・始め方・失敗しやすいポイントを、業界データと実例で解説していきます。
目次
このセクションでは、「求人を出しても人が来ない」構造を整理します。
求人広告の仕組みは、給与・休日・勤務地といった条件を並べて比較させるものです。この構造では、条件面で有利な会社に候補者の目が向きます。
リクルートの調査では、中途採用を実施している従業員1,000名以下の企業の約3割が「募集しても応募がない」と回答しています(リクルート「中小・中堅企業の事業課題・人材課題に関する調査」2024年9月)。条件比較で戦う限り、待遇で勝ちにくい会社は不利な位置に置かれ続けます。
「うちは知名度がないから仕方ない」と言いたくなる気持ちはわかります。しかし本当の原因は、知名度そのものではなく、会社の中身が候補者に見えていないことです。
知名度がなくても、現場のリアルが見える会社は選ばれます。逆に知名度があっても、入社前のイメージと現実にギャップがあれば辞めていきます。エン・ジャパンの調査(2025年、n=291社)では、早期離職の要因1位が「仕事内容のミスマッチ」で57%を占めました(エン・ジャパン「『早期離職』実態調査(2025)」)。
つまり勝負を決めているのは知名度の有無ではなく、会社の中身を見せられているかどうかです。関連する原因の整理は「採用ミスマッチの原因と対策」も参考にしてください。
候補者は最終的に「応募するかどうか」を短時間で判断します。判断材料が求人票の条件だけだと、条件で勝てる会社に流れます。
この段階で見えていないのは、仕事の風景、社員の人柄、現場の空気感といった「文字で書きにくい情報」です。ここを設計して届ける取り組みが、次に説明する採用ブランディングです。
採用ブランディングは、求職者に「この会社で働きたい」と思ってもらえる認知・印象を設計する取り組みです。求人広告を出す前の段階から、どんな会社で・どんな人が働いていて・どんな文化があるのかを伝えていく活動を指します。
「自社の何を、誰に、どう伝えるか」を設計するのが本質です。伝える中身が候補者の知りたいこととずれていれば、どれだけ露出しても応募にはつながりません。逆にずれていなければ、大きな媒体費をかけなくても指名で来てもらえます。
求人広告と採用ブランディングは役割が違います。
| 項目 | 求人広告 | 採用ブランディング |
|---|---|---|
| 目的 | 募集を露出して応募を集める | 「ここで働きたい」と思ってもらう |
| 効果の持続 | 掲載期間のみ | 蓄積される |
| 情報の性質 | 条件(給与・休日・勤務地) | 文化・人・仕事の実態 |
| 選ばれ方 | 条件比較 | 納得感 |
どちらか一方ではなく、組み合わせて使うものです。求人広告で露出を確保し、採用ブランディングで中身を見せる。両方が揃って初めて採用は機能します。
「ブランディング」と聞くとロゴやサイトのデザインを想像しがちですが、それは表面の話です。おしゃれな採用サイトを作っても、載っている情報が候補者の知りたいこととずれていれば意味がありません。中身の設計と届け方が核になります。
「これは知名度のある会社向けの施策だ」と思われがちですが、実は知名度のない会社ほど効果が出やすい構造があります。「採用動画で解決できる採用課題」もあわせて参考にしてください。
知名度のある会社は名前で人を集められます。しかしその分、「名前だけで入社を決めた」候補者も多く含まれます。入社後に「思っていた仕事と違った」となるケースは珍しくありません。
先述のエン・ジャパン調査で早期離職の要因1位が「仕事内容のミスマッチ」(57%)である通り、名前で集めた人材がそのまま定着するわけではありません。知名度は「集める段階」では有利ですが、「定着させる段階」では必ずしもプラスに働きません。
現場産業(製造・物流・建設・ホテル等)の仕事は、外からは見えにくい特徴があります。工場の中、ホテルのバックヤード、建設現場の作業風景。日常で目にする機会がほとんどありません。
裏を返せば見せたときのインパクトが大きいということです。候補者が「こういう仕事なんだ」「この人たちと働くんだ」と具体的にイメージできれば、条件だけでは判断できない納得感が生まれます。この納得感が面接辞退や早期離職を減らします。
株式会社moovyが就職・転職経験のある20〜40代345名に実施した調査では、採用動画を見たうえで応募を見送った理由として「信用しきれない・盛っている印象」が29.0%にのぼりました(moovy「採用動画トレンド調査2025」2025年9月実施)。
これは「情報を出すとリスクがある」のではなく、中途半端な情報はかえって不信感を生むということです。情報を出さない会社は比較検討の段階で候補から外れ、盛って出した会社は不信感で外れます。候補者が求めているのは「判断できるだけの正直な情報」です。
talentbookの調査(2024年2月)では、従業員1,000名以上の企業の57.5%がこの取り組みに着手しているのに対し、300〜999名規模では38.4%にとどまっています(talentbook「採用ブランディングにおける取り組み実態調査」PR TIMES 2024年2月)。裏を返せば、同規模の6割はまだ着手していない領域です。
予算やリソースが限られていても実行できる4つのステップを紹介します。全部を一気にやる必要はありません。ステップ1から順に進めれば形になります。
出発点は、自社の魅力を言語化することです。ただし社長や人事が考える魅力と、社員が実感している魅力は異なることが多くあります。
異なる部署・年次の社員5人に、以下の3つを聞いてください。
ここで出てくる具体的なエピソードが、採用ブランディングの材料になります。「風通しがいい」「アットホーム」といった抽象語ではなく、社員の言葉で出てくる具体的な場面や判断軸が重要です。ヒアリング結果の言語化については「会社の魅力の伝え方」で詳しく解説しています。
「良い人が欲しい」では機能しません。発信の中身は、届けたい相手によって変わるからです。
以下の3軸で自社に来てほしい人物像を具体化してください。
3つが決まると「何を伝えるべきか」が絞り込まれます。成長重視の20代を採りたいならキャリアパスと研修制度を見せる。安定重視の30代なら定着率や福利厚生の実態を見せる。相手が明確になって初めて中身が定まります。
手段は採用サイト、動画、SNS、パンフレットなど複数あります。全部一度にやろうとするとリソースが分散して、どれも中途半端になります。まず1つに絞ってください。
| 優先度 | 手段 | 費用感 | 向いている状況 |
|---|---|---|---|
| 最優先 | 求人票・採用サイトのテキスト改善 | 低(自社で対応可) | 今すぐ始めたい。予算が限られている |
| 次 | 社員インタビュー動画(1〜2本) | 目安50万〜100万円 | テキストでは伝えきれない情報がある |
| その次 | 採用サイトの写真・レイアウト刷新 | 目安50万〜200万円 | サイトの離脱率が高い、写真がフリー素材 |
| 発展 | 複数本の動画+YouTube運用 | 目安100万〜300万円 | 継続的に発信したい。複数職種を見せたい |
発注検討時の詳細は「採用動画の種類と使い分け」「採用動画の費用相場」「採用動画の制作の進め方」「採用動画制作会社の選び方」を参考にしてください。
「作って終わり」ではありません。発信後に反応を見て改善を続けるPDCAが前提です。
確認すべき指標は次の3つです。
3ヶ月ごとに振り返ると「動画を見て応募してきた人は定着率が高い」「サイト改善後に辞退が減った」といった変化が見えてきます。ここで初めて次に打つ手の判断ができるようになります。
数ある発信手段のなかで、なぜ動画がよく話題に上がるのか。理由はシンプルで、「文字で書きにくい情報」を短時間で伝えられるからです。
工場の作業風景、ホテルのバックヤード、建設現場の段取り。文字と写真だけでは、現場の空気やチームの動きは伝わりにくい領域です。
動画にすると、無言の場面や社員同士のやり取りも含めて「働いている実感」が伝わります。応募前の候補者が「自分もここで働いている姿がイメージできる」ところまで到達しやすくなります。
用意された台本を読み上げる形式では、どの会社の動画も同じように聞こえます。逆に社員が普段の言葉で自分の仕事を語る映像は、内容が具体的になるぶん「盛れない」構造になります。
先述のmoovy調査が示した通り、候補者は誇張を見抜きます。台本感の少ない映像は不信感を生みにくく、応募段階での離脱を減らします。密着型の撮り方は「密着動画のつくり方」で詳しく解説しています。
社員インタビューや現場密着の撮影を採用サイト・YouTubeに組み込んで発信している企業の実例は、業種別に整理しています。
業種別のより詳細な検討は「製造業の採用動画事例」「IT企業の採用動画事例」もあります。
取り組んで成果が出ないケースには共通するパターンがあります。「建設業の採用課題と対策」もあわせて参考にしてください。
最もやりがちな失敗は、会社を実態より良く見せようとすることです。
きれいなオフィス写真、ポジティブな社員コメント、充実した福利厚生のアピール。実態と合っていれば問題ありませんが、盛っていれば入社後に「話が違う」となります。moovy調査で応募見送り理由の上位に「盛っている印象」が入っている通り、候補者は誇張を見抜きます。
目的は「良く見せること」ではなく「正しく見せること」です。ありのままを見せたうえで共感してくれる人を採ることが、結果的に定着率を高めます。
「人事の施策」だと思われがちですが、人事だけでは発信する材料が足りません。
材料は現場にあります。社員の言葉、仕事の風景、チームの雰囲気。これらは机上で作れるものではなく、現場の協力がなければ手に入りません。
また、社長のコミットも欠かせません。「会社としてどう見られたいか」を設計する活動であり、経営判断そのものだからです。人事担当者だけに任せると経営方針との一貫性が取れず、結果として中途半端な発信になります。
「動画を作ろう」「SNSを始めよう」と手段から入って、途中で止まる会社は少なくありません。
原因はほぼ、ステップ1(社員ヒアリング)を飛ばしたことです。手段から入ると「何を撮ればいいかわからない」「何を書けばいいかわからない」となって進みません。
まずは社員5人にヒアリングしてください。「入社の決め手」「仕事のやりがい」「他社と迷ったとき何で決めたか」。この3つの答えが、発信すべき内容そのものです。
ストークベースは、現場産業の採用領域で映像制作の実務を積み重ねてきました。相談時は具体的な状況をお聞かせください。